東京高等裁判所 平成12年(う)275号 判決 2000年5月29日
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中一一〇日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人伊東章作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。論旨は、原判示第一及び第二の事実について刑法四二条一項の自首の適用をしなかったのは法令の解釈適用に誤りがあり、かつ、量刑も不当であるというものである。
そこで検討するに、原審記録によれば、原判示のとおり、被告人が、第一のけん銃加重不法所持の罪及び第二のけん銃不法発射の罪を自ら犯したことを捜査機関に申告するに当たって、当該各犯行に使用したものとは異なるけん銃に、発射を装う偽装工作を施した上で持参して、右各犯行に使用したけん銃である旨虚偽の供述をしたことが認められ、かかる申告に刑法四二条一項を適用しなかった原判決の法令適用に所論の誤りはない。また、原判示第一、第二の各犯行が、対立抗争相手の暴力団側から自己の属する組事務所にけん銃弾を撃ち込まれた報復として、かねて用意していたけん銃と適合実包を持ち出してその上部組織の総本部事務所出入口方向に向けてけん銃四発を発射したというものであり、動機は暴力団特有の論理に基づく到底認められないものである上、それが商店や一般住宅が密集している地域内で敢行された極めて危険な犯行であることに加え、付近住民らに多大な不安感、恐怖感を与えるなどしたことを考えると、その犯情は悪質重大である。原判示第三の犯行は、原判示第一、第二の各犯行を引き起こした責任をとるべく自首するに当たり、古いけん銃に細工を施して警察署に持参したというものであり、所持自体は、それが直ちに社会に与える具体的な危険性はさほどなかったにせよ、適正な捜査を撹乱しようとするもので、被告人の順法精神の欠如を顕著に示すものとして非難される。いずれにせよ、本件は、暴力団員である被告人が抗争等に備えてけん銃二丁を適合実包と共に入手し、そのうち一丁で発砲事件を引き起こしたのであり、原判示第一、第二については刑法上の自首が成立しないとはいえ、被告人が自ら出頭して自己の犯行であると申告したこと、原判示第三は銃刀法上の自首にかかること、被告人には罰金前科しかないことなど所論の情状を十分酌んでも懲役七年に処した原判決(求刑・懲役一〇年)が不当に重いとは認められない。論旨は理由がない。
よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、刑法二一条を適用して当審における未決勾留日数中主文掲記の日数を原判決の刑に算入することとし、主文のとおり判決する。